めざせ最後の女! 在宅ワンダーランド | グレースケアのとんち介護教室

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時代の先端にして崖っぷち、ケアのトレンドを脱力レビュー。

グレースケアのスタッフが、みごと最優秀賞を受賞!じゃなくて自称!

シルバー新報・作文コンクール「伝えたい介護の楽しさ奥深さ」に参加しました。


以下、せっかくなのでご紹介します。

やっぱりケアの仕事っていいですよね。うふ。


「在宅ワンダーランドで夢心地」
NPO法人グレースケア機構 齊藤明美

ヘルパーを始めて十余年。いろいろな方とお付き合いさせて頂きました。いま介護のお仕事に人が集まらない、特に若い人に敬遠されているってことを残念に思っている一人として、本当はとても面白くてやりがいがあるんだよと伝えたい。

そこで私がいままで経験したことを綴ってみます。

 

まず、あのドキドキ感。独居の方を訪ねるときは、毎回緊張します。大丈夫かしら、ちゃんと家にいるかしら、転んでないかしら、そして何よりいつもと変わりないかしら? 玄関の扉を開けて、ご本人の顔を確認すると、いつもまずホッとします。


いままで予想外の出迎えにビックリしたこと数知れず。

夜間の巡回をしていたとき。夜中の1時に行くと、ご本人が玄関と居間の間で倒れています。奥の部屋はタンスが荒らされたように服が散乱、うゎこれは一体なに? 強盗?


よくみると靴を履いて寝巻きを着替えてる…。やおら起き上がって本人曰く「デイに行く仕度ができましたっ」。えぇ!? 「あら~、草木も眠る丑三つ時、夜中だよ。」と言うと、「あら~」、結局2人で大爆笑。



また、昼間行ったらうつぶせで玄関に倒れていたことも。ご主人を送り出してドアを閉めた途端、転び、起き上がれなかったとのこと。およそ半日間そのまんま。うゎ苦しかったでしょう!と慌てて抱え起こすも、本人は意外と淡々と「またやっちゃいました」って。…強い。


ほかのヘルパーの女の子は、扉を開けたら煙がモウモウ、慌てて名前を叫ぶとおじいさん「お~、なんか見えないの~」と呑気。鍋がくすぶり消防車もかけつける騒ぎながら本人「わしゃどこも悪くない」。その子の方は「煙モロ吸い込んで苦しかった」と半泣き。やっぱり強い!!


ドキドキの次は、やっぱりトキメキ。いろんな人生を背負った方々との出会いには胸が躍ります。



107歳のおばあさん。とにかく元気。もう周りのことなんて気にしない。身体も大きい方で介護も一苦労。池の周りを車イスをふうふう言いながら押し、ちょっと休ませてと池の手すりにすわったら「あ~危ないよ!」。


あ、やっぱり私のこと心配してくれてるんだと嬉しく思ったら「あんたが落ちたら、あたしゃどうやって帰ったらいいんだい!」。


リウマチで10数年、神経質と評判でヘルパー泣かせのおばあさん。昔は都内でスポーツカーを乗り回していたとか。食べ物は生協のこれ、着る物はそれってこだわりとプライドをしっかりもっておられた。


当時、その日の気分で外出して買い物やご飯を食べたりしていたから、私は今日はどこへ行ってどうするのかな、あそこの土手なら今頃桜がきれいだし、あの店は車イスで行けるし…と思い巡らすのが楽しかった。


ある日、訪問するとどこか様子がおかしい。熱はないけど、すぐウトウトしてしまう。直感でしかないのだけど、家族に連絡し病院へ行ってもらうと、腸が破けていて命に関わるところでした。


息子さんの説得で人工肛門にしたところ、医者や看護師とは一切口もきかなかったそう。本人の生きざまのこだわりからは、絶対に許せないことだったのでしょう。私があのとき気がつかなければ、そのまま逝けたかもしれない、それがその人らしい生き方だったかもしれません。


本人に聞かないと一生悔いると思って、私はお見舞いに行きました。顔を見たら「ありがとう」って。どっと涙が出ました。私が騒がなきゃよかったねって聞いたら「そんなことない」と答えてくれました。そのお陰で救われました。


今でも時々思い出します。「ほら、あの枝折ってらっしゃいよ!」「届かないって」と、レストランや桜の花の下で楽しく喋ったことを…。


最後に96歳のおじいちゃん。元発明家。ターミナルに入っていたある日、下痢で本人初めて便失禁をし、後始末できずに混乱。そのあと精神的に落ち込んで、飲み食いを一切しなくなりました。


しばらくして、家族から連絡があって、夜仕事が終わってから行きました。尿瓶を使おうとしているので手伝ったら、家族はさーっと隣の部屋に行って、みんな泣いていました。


それまで絶対人にさせなかったのに、世話を頼んだということはもうダメだって思ったらしいのです。そして本当に、その夜中に息を引き取りました。自分で選んだ死だったのでしょうか。後にも先にも、おじいちゃんが尿の介助を頼んだはその1回だけ。だから私はその後、家族からはおじいちゃんの「最後の女」って言われています。


出会いには別れがつきもの、そしてその別れは本当に永遠の別れになってしまいます。通っていたお宅もやがて建物ごと無くなっていきます。寂しく切ないこともありますが、人の生き死に関わる仕事。制度とかは本当はちっぽけな話で、どうしたらより深く、そして最期のひとときをその人らしくまっとうできるのか、生きざまがいろいろなことを教えてくれます。


これからもいっぱいドキドキしたりトキメキたい。目指せ最後の女!